【考察】「12人の怒れる男 評決の行方」(ネタバレ)裁判モノ映画としては史上最高

名作

作品紹介

製作 1997年
ジャンル サスペンス
監督 ウィリアム・フリードキン
キャスト ジャック・レモンジョージ・C・スコットアーミン・ミューラー=スタール

『12人の怒れる男 評決の行方』は、1997年、映画『12人の怒れる男』(1957年)のリメイク版として製作された映画です。

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この映画の見どころ

この映画のみどころは、”司法”の魅力がぎっしり詰まっているという点です。個人的には、裁判モノでこれを超える映画は見たことがありません。

有罪確実と思われていたスラム街出身の少年。

「こんなクソガキ、死刑にしてしまえ!」という先入観で話し始める12人の陪審員たちですが、検証を重ねるうちに「あれ?おかしいぞ?」となっていくわけです。

その過程で行われる登場人物たちの会話、主張のぶつかり合いが神がかり的に面白いのです。

50年以上も前に作成されたにもかかわらずその面白さは全く色褪せることは無く、私は最後まで夢中になってTV画面にかじりついていました。

おかげで、うちのTVには私の歯型が今でもくっきりと残っています(笑)

「この映画を見たことがきっかけて法曹界に入った」という方も大勢います(これは本当)。

 

この映画のすごいところは、ストーリーと役者の演技力だけで面白さを伝えているというところだと思います。

ロケに使われたのは、20畳くらいはあるかという会議室のみ。小道具といえば、凶器のナイフとボード版くらいです。

低予算で成功した映画といえば、『CUBE』や『SOW』などが有名ですが、この映画も負けじと劣らず予算を使っていない。

見事!と、私は言いたい。

 

さて、裁判の面白さが詰まっているこの映画ですが、まずは裁判の原則を覚えておかなければなりません。

それは、「疑わしくはシロ(無罪)」という言葉です。99%有罪だと思っていても、1%有罪に疑問があれば、それは無罪になるのです。

それに、裁判には「感情」というものを捨てなければなりません。「可哀そうだから無罪」「この人嫌いだから有罪」なんてありえません。

12人の陪審員たちは、被告人の素行の悪さから完全に有罪と決めつけていました。しかし、粗々ではありますがそれぞれ証拠を検証し、証拠能力に疑問が生じた。従って、有罪であることに疑問が生じたので無罪。

司法の正しい在り方であると私は考えます。

 

細部を冷静に分析してみると、まず目につくのは、警察の捜査がザル、というところです。何分、1954年に作成された映画ですので、今とは警察の捜査方法も違うとは思いますが、それを差し引いてもひどいです。

検察側の最も有力な証拠が、二人の目撃者。

なんといっても犯行を目撃した人間がいるのだから、間違いないだろう。と思ってしまいたくなります。

しかし、陪審員たちが検証した結果、二人の証言に信ぴょう性が欠けるということが分かります。女性は弱視である可能性が高く、老人は被告人を目撃することが物理的に不可能だったのです。

捜査には、「自白だけでは証拠とすることができない」という言葉があります。

これは被疑者を対象とした言葉なんですが、仮に被疑者が「私がやりました」と言っても、本当にそうなのかどうかを捜査側が確かめなければなりません。

例えば殺人事件であれば、「凶器のナイフは○○に捨てた」と供述させたうえ、本当に○○から凶器が出てきて初めて”自白した”とみなすことができるのです。

(ちなみに、犯人しか知りえない情報を供述させることを”秘密の暴露”と言います。)

 

今回の目撃者も、証言したからと言って信用してホイホイ証拠にしてはいけないのです。目撃者は被疑者ではないですが、被疑者と同じように、本当に目撃が可能だったかどうかを検証しなければいけなかったのです。

実際に、噓の証言や、勘違い・思い込みによる事実誤認の証言はたくさんあります。

それが、評決という最終段階において、捜査素人の陪審員たちによって検証されるなんて…警察は恥ずかしいと思わないといけませんね。

 

本来であればこの少年は、警察の捜査の段階で捜査線から消えるはず。仮に送致されたとしても、検察官は証拠不十分で不起訴判断。仮に起訴されたとしても、裁判では弁護士に突っ込まれまくって逆転無罪。そんな事件です。

しかし、そのすべての網を潜り抜けて評決までいってしまったこの事件。

実際に起こらないことを祈るばかりです。

 

当初はTVドラマとして放映されていた「12人の怒れる男」ですが、1954年、1997年、2007年と3度にわたり映画化され、日本では舞台化もされています。

1957年製作『12人の怒れる男』

今回紹介するのは、1997年にリメイクされた『12人の怒れる男 評決の行方』です。

原作をかなり忠実に再現しており、とってもいい映画でした。

主要VOD4社配信状況

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登場人物

※ この映画では、登場人物の名前が直接的に語られず、「1番」などと審査員番号で呼ばれます。それだと分かり辛いので、私が勝手にあだ名をつけました。本ブログではそのあだ名で進めていきます。

・黒人メガネ君(1番)
中学校の教師で、フットボールチームのコーチ。討議の進める陪審長を務める。
・黒人白髪パンチさん(2番)
銀行員。発言は控えめ。
・ガンコじいさん(3番)
印刷会社を一台で築いた経営者。息子と確執があり、十数年会っていない。とにかく頑固。
・ブローカー(4番)
株式仲介人。理論的且つ冷静に物事を判断する能力を持つ。
・黒人スラム君(5番)
スラム街に住む労働者。スラムに生きる人間の気質を理解している。
・普通のおっさん(6番)
塗装工。歳上の人間に対して礼節を欠かさない。
・野球(7番)
ヤンキースファン。自分の言いたいことは堂々と言うタイプ。
・デイビス(8番)
本作の主人公。12人の陪審員の中で、ただ一人裁判の判決に疑問を抱いている。
・老人(9番)
80歳近い老人。人生経験に基づいた正しい善悪判断ができる。
・黒人黒帽子(10番)
自動車修理工場を営む。感情的に物事を判断するタイプ。
・ヒゲ(11番)
時計職人。根は真面目で、信念に熱いタイプ。
・広告マン(12番)
広告代理店に勤める男。意志が弱く、周りに流されてコロコロ意見を変える。

ストーリー(ネタバレ注意)

殺人事件発生

とある法廷で、18歳の若者が被告人席に立たされていた。少年は、第1級殺人罪(親殺し)に問われていた。

検察側の主張はこうだ。

・被告人は、某日0時10分頃、自分の父親の胸にナイフを突き刺し殺害した。犯行後被告人は逃亡するが、3時頃に自宅に戻った際、警察官により逮捕された。
・凶器のナイフからは指紋が拭き取られていたが、被告人が前日に購入したナイフと特徴が一致しており、被告人の物である可能性が高い。
・被告人は、事件の前日、父親と口論になった際に数発平手でぶたれており、恨みを持っての犯行とみられる。

・被告人の1つ下の階に住んでいる老人は、某日0時10分頃、「殺してやる!」と怒鳴る被告人の叫び声と、何者かが床に倒れ込む音を聞いている。その後、階段を猛スピードで下り逃げていく被告人を目撃している。
・被告人のアパートから線路を挟んだ向かいの建物に住んでいる女性は、某日0時10分頃、被告人が父親の胸にナイフを突き立てる姿を通過する電車越しに現認している。

一方、被告人の主張は検察側と異なる。

・事件の前日8時ころ、父親と口論になり怒って家を飛び出した。その後、確かに凶器と同じ特徴のナイフを購入した。しかし、ポケットに穴が開いており、そのナイフはどこかへ落としてしまった。
・家を飛び出した後、23時頃に一旦帰宅するが、その後すぐに深夜映画を見に外出。それから家に帰るまでの某日3時頃までの間、家に帰っていない。

ところが被告人は、見に行った映画のタイトルやキャストの名前すら覚えておらず、本当に映画館に足を運んだのかどうかはかなり怪しい。

さらに、被告人は犯罪が日常茶飯事のスラム街に生まれ育ち、強盗や傷害などの前科があることが判明。

被告人は、アリバイを証明できず、動機があり、普段の素行が悪い。そしてなんといっても、犯行を目撃した目撃者が二人もいる。

被告人は有罪で間違いない。有罪の場合は、もちろん死刑。そんな雰囲気に包まれた状態のまま、少年の生死は、12人の陪審員による評決に託されることとなった。

評決開始

別室に通された12人の陪審員たちは、誰しもが有罪間違いなしと感じていた。評決の結果は明らかで、その場には緊張感のない空気が流れていた。

無駄な審議に時間をかけたくないということで、議論をすっ飛ばし、いきなり投票をしてしまおうという意見が出る。

投票の結果、有罪が11人、無罪が1人。唯一無罪を主張したのは、本作主人公のデイビス

もちろんデイビスも、他の者と同様、少年は有罪である可能性が高いと感じていた。しかし、議論なしで有罪と決めつけては少年が可哀そうだ。そんな思いから、無罪に手を挙げたのだった。

デイビスは「凶器のナイフが見たい」と主張。このナイフは、刻印が特徴的で、店の主人も「初めて扱った」と証言しているほど流通量が少ないものだった。それゆえ、少年が購入したものと同一品に間違いないとされていた。

しかしデイビスは、自身のポケットから凶器のナイフと全く同じナイフを取り出すのだった。意外なアイテムの登場にざわめき立つ陪審員たち。

デイビスは、少年の家に近くで偶然このナイフを買ったというのだ。どうやらこのナイフは、それなりに流通量があり誰にでも購入できるものらしい。

2回目の投票

ナイフの出現は意外だったが、それでも少年を有罪視する雰囲気は変わらない。

陪審員たちは、デイビスを除いた11人で2度目の投票を行うこととした。

すると今度は、有罪10人、無罪1人。無罪が一人増えたのだった。

無罪を主張したのは、老人。たった一人で11人に立ち向かっていくデイビスの姿に心を打たれ、とことん議論したくなったというのだ。

裏切者の出現にあきれ果てる有罪派の10人。

目撃者の証言

次に話の焦点となったのは、2人の目撃者。

下に住む老人は少年の叫び声と誰かが倒れる音を聞き、向かいに住む女性は通過する電車の窓越しに少年の犯行を目撃している。

しかし、デイビスはこの二人の目撃者による証言の矛盾点に気付く。犯行当時に電車が通過中であれば、すさまじい騒音に満ちていたはず。そんな状況で目撃者の老人は、少年の声など聞き分けることができるのだろうか?

デイビスの追及は、確かな説得力があった。

ここまできて、有罪派だった黒人スラム君「俺の投票を無罪に変えてくれ」と申し出るのだった。

少年の行動

ここでヒゲがとある疑問を投げかける。

「少年が犯人であれば、なぜ殺した3時間後に家に戻ったのか?」

これに対しブローカーは、「凶器を処分するためだ」と主張するが、いくら凶器を処分するためとはいえ、警察官がいるかもしれない家に戻るのは少年にとってはリスキーすぎる。

さらに、目撃者の女性は、犯行を目撃した際に悲鳴を上げている。やはり、犯行現場に戻るのはあまりにも不自然だ。

ここでヒゲが、自分の意見を無罪に変える。

目撃者の証言2

次は、目撃者の老人の話。目撃者の老人は、ベッドで寝ている時に少年の叫び声を聞き、その15秒後、階段で逃亡する少年を目撃したと証言している。

しかし、足が悪く、法廷でも支えられながら歩いていたこの老人は、たったの15秒でベットから廊下まで移動できるのだろうか?

改めて調べてみると、目撃者の老人の部屋では、ベットから廊下の扉までが3.7m、廊下の扉から階段の扉までが13.3m。

ここで、デイビスが足の悪い老人役となり、この約17mの距離を実際に歩いてみると…なんと42秒。とてもじゃないが、15秒で廊下まではたどり着かない。

デイビスのこの指摘を聞いて、ついにガンコじいさんが激高。「あのガキは死刑だ!」と怒鳴る。

しかしデイビスは、「あなたは個人的な恨みだけで死刑に従っているサディストだ!」と反論。議論は荒れに荒れる。

 

ここで、3回目の投票が行われる。結果、黒人パンチ普通のおっさんが意見を”無罪”に変え、有罪6人と無罪6人。

少年の行動2

次に議題に上がったのは、少年が「見た」と証言していた映画の題名やキャストを覚えていなかった件について。これがために、少年は自身のアリバイを証明することができなったのだ。

デイビスは、「父親の死体が近くにある極度のストレス下で、映画の題名やキャストなど思い出せるはずもない」と主張。

これに対しブローカーは、「どんなストレス下であっても、見たものは思い出せるはず」と主張。

デイビスは、ブローカーに対し「昨晩どこにいた?」「その前の晩は?」「その前の晩は?」と質問をする。するとブローカーは、過去にさかのぼるごとに記憶は曖昧になっていき、ついには先週観た映画の題名や主演女優の名前を思い出すことができなかった。

人間の記憶がいかに曖昧なのかが証明された。

 

ここで一貫して有罪派だった野球が、「飽き飽きした、俺の意見を無罪に変える」と申し出る。すると、曖昧な理由で意見を変えた野球に無罪派のヒゲが激怒。

「無罪に変えるなら無罪を確信してからにしろ!有罪なら有罪を確信しろ!信念が無いのか!?」(ここは、私が一番好きなシーンです)

 

この後に行われた4回目の投票の結果、有罪派の黒人メガネ君、野球、広告マンが意見を翻し、有罪3人、無罪9人。

偏見

流れは完全に無罪に傾いているところで、黒人黒帽子が持論を繰り広げ無罪派を説得しようと試みる。

しかし、黒人黒帽子の意見は完全に感情論。

「スラム街に住んでる奴はクズ」など、理論的な話は皆無で、スラムに住む者に対する差別だけに終始した。この暴論には、無罪派はもちろんのこと、さすがの残りの2人の有罪派までうんざり。

黒人黒帽子は、必然的に議論から締め出される。

有罪派の反論

これまで有罪派を支えてきたのは、ブローカーの力が大きかった。これまでブローカーは、理論的且つ紳士的に討議を重ね、有罪の意見を支持してきた。

ここでブローカーは、犯行の瞬間を目撃した女性の話に触れる。この証言が覆らない限り、少年の犯行は決定的ともいえる。

この指摘には、さすがのデイビスも反論できない。

評決は全員一致が絶対条件。このままでは意見がまとまらず、評決不一致となってしまうのか?

そう思われた瞬間、老人が重要なことを発言する。法廷に立った目撃者の女性の眼頭には、メガネの跡があったのだという。老人は、ブローカーが眼鏡を外した時の仕草を見て、目撃者の女性にも同じ仕草があったことをきっかけに思い出したのだ。

これは、女性の視力が悪いことを物語っている。

しかも女性は、ベットで寝ている最中に犯行を目撃したと証言している。寝ているときに、メガネを付けるものなどいるはずがない。

視力の悪い者が暗闇の中で見た目撃証言に、どれだけの信ぴょう性があるのだろうか?

 

ここで、有罪派の最後の砦だったブローカーが無罪に意見を変える。黒人黒帽子も続く。

最後の一人

最後に残った有罪派はガンコじいさん。

ガンコじいさんは、これまでこの場で話してきたことはすべて推測に過ぎず、何も証明できていないと主張。しきりに「有罪だ!」と叫ぶが、合理的な理由など話せるはずもない。

ガンコじいさんは、被告人の少年に自分の息子の姿を重ね合わせていただけだった。

デイビスは「あの子はあんたの息子じゃない」と一言。

ガンコじいさんは、泣きながら「無罪だ」と呟く。

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