「四丁目の夕日」の作品紹介
連載 | 1985~1986(月間漫画『ガロ』) |
単行本 | 全1巻(完結) |
ジャンル | 人間ドラマ |
作者 | 山野一 |
「四丁目の夕日」のみどころ
みなさんは、『三丁目の夕日』という漫画を知っていますか?
『三丁目の夕日』とは、西岸良平さんが書いている作品で、昭和30年代の日本を舞台に古き良き庶民の生活を書き綴ったノスタルジックな作風が売りの、1974年から現在(2022年)まで、約50年間もの長きに渡り連載が続いているというモンスター漫画です。
読んだことは無くても、「名前だけなら聞いたことがる」という方も多いのではないかと思います。
しかし、今回紹介するのは『四丁目の夕日』であって、『三丁目の夕日』とは全くの別物。決して誤植ではありません(笑)
そしてこの作品は、『三丁目の夕日』と同様に心温まるほのぼのストーリー…とはまるでかけ離れており、一人の人間の精神が崩壊していく様を描いた残酷な物語なのです。
この漫画で一番ショッキングなのは、なんといっても、主人公たけしの父である富茂が、印刷用機械に巻き込まれてミンチにされるシーンでしょう。
わざわざ見開き2ページをめいいっぱいを使って、一人の人間がまるでひき肉のようにバラバラにされる様を表現しているのですが、このシーンを見れば、誰しもがトラウマ級の衝撃を受けること間違いありません。
ショッキングなのは、絵だけではありません。ストーリーの超絶鬱展開っぷりも相当なものです。
最初の50ページくらいまでは、苦境に立たされつつも気合と根性で乗り越えようとする富茂とたけしの人情噺として見れるのですが、中盤くらいから言葉を失い、終盤はとても見ていられないほど辛辣。
そして問題のラストシーンでは、あまりの衝撃展開に驚いて目ん玉が飛び出してしまい、眼科に駆け込んだ読者が大勢いたとかいなかったとか…(いません)
とにかく、いい意味でも悪い意味でも印象には残る問題作。皆さんは、最後まで読み切ることができますか?
「四丁目の夕日」の登場人物
別所たけし
本作の主人公。K高校(都内でも有名な進学校)に通う高校3年生。中3の妹(弘子)と、小5の弟(ひでき)がいる。
貧乏な家庭で生まれ育ったが、「息子には惨めな思いをさせたくない」という父親の思いを一身に受け、「なにくそ」の精神で猛勉強。結果、校内試験では常に10番以内に入るくらいの成績を残せるまでになった。
その上兄弟の面倒見も良という、非の打ちどころのない模範的な高校生。
どこの大学にも入学できるくらいの高い学力があるが、家庭の経済状況を鑑み、受験は国立大学一本に絞る予定。
受験勉強に集中するため、恋人の恭子とは距離を置いている。
富茂
たけしの父。42歳。14歳の頃から印刷一筋で、現場たたき上げの印刷工。職人気質の人間で、気難しい一面がある。
28年間の下積み生活を終え、ついに独立。自分の印刷工場を持つに至る。しかし、怪しい金融業者に手を出してしまい、多額の借金を返すために日夜肉体労働に明け暮れている。
工場で健気に働く三平をえらく気に入っている。
中卒であるため、幼少期より多くの辛辣を舐めつくしてきた。従って、息子のたけしには同じ思いをさせたくないと考えており、超スパルタ教育でたけしの学力向上にハッパをかけてきた。
今は、たけしが持ち帰る通信簿を眺めている時が、富茂にとって最大の幸せを感じることができる瞬間である。
マス江
たけしの母。内助の功で富茂を支える。
立花栄一
たけしと同じく、K高校に通う高校3年生。たけしの親友。
超大金持ちの家系に生まれ、イケメンで、学力が優秀なうえに運動神経も抜群。一人で大勢の不良を撃退できるほど腕も絶つ。それでいて、優しく寛容で、いざという時の度胸もある。
完璧人間すぎて、弱点を見つける方が難しい。唯一の欠点といえば、未成年でたばこを吸っているということくらい(立花財閥の息子という肩書きから、先生に見つかっても咎められることはない)。
東大に入学できるくらいの学力を持っているが、高校卒業後は立花財閥の次期社長として父の後を継ぐことが既に決まっており、決められたレースの上を進むしかない自分の人生を「つまらない」と感じている。
従って、自分で自分の人生を切り開いていくたけしをうらやましく感じている。
恭子
K高校に通う高校3年生。たけしのガールフレンド。受験勉強で恋愛どころではないたけしに5回も手紙を送るなど、どちらかというと恭子の片思い成分の方が強め。
三平
富茂の工場で働く、一本気な若者。
幼い時に父を失くし、病気がちな母親を養うために中卒で働く、心優しい青年。
「四丁目の夕日」のストーリー(細部)
貧しい家庭に生まれたたけしは、幼少期から父富茂の厳しい躾を受けて猛勉強し、校内で常に10番以内に入るという優秀な学力を身に着けるまでに成長した。
印刷工一筋の富茂は、独立して新しく印刷所を建て、懸命に労働して借金を返しながらもたけしの学費を賄っていた。
超金持ちでパーフェクトモテ男君の立花を親友に持ち、恭子という美人のガールフレンドも出来て、一見するとたけしの未来は、明るい光が差して込んでいるかのように思えた。
しかしある日、たけしの母マス江が自宅でごみ焼却を行っている最中に、スプレー缶が大爆発を起こして全皮膚30%の火傷、骨折、脊髄損傷などの大けがを負う。
治療には長期の入院が必須で、リハビリも必要になるほどである。
そしてこのマス江の事故をきっかけに、たけしの人生は徐々に狂い始める。
たけしの学費の他にマス江の治療費分も稼がなくてはならなくなった富茂は、昼夜を別たずの過酷な労働を続けた。必死で働く富茂に、従業員の三平も必死についていくのだった。
ある日、悲劇は起こる。
疲労と睡眠不足で疲労困憊の富茂は、工場で作業中に足元がふらつき、印刷機械に飲み込まれてしまう。次の日の朝、三平が工場に顔を出してみると、富茂は既に機械でミンチにされ、人としての原型を留めないほどバラバラな状態で発見された。
父の死にショックを隠せないたけし。そして、入院中の母や兄弟たちを養うため、たけしは楽しみにしていた大学進学を断腸の思いで諦め、富茂の工場を継ぐことにした。
しかし、たけしの悲劇はそれだけでは収まらない。
印刷工場のお得意先が、富茂の死後、次々と手を引いていったのだ。経営が成り立たなくなった工場は、ついに潰れてしまう。
その後、次から次へと襲い掛かってくる不幸にたけしの精神は徐々に崩壊し、人間としてのまともな判断が出来なくなっていく…
この後の展開
この後も、たけしは不幸を背負い続けます。
心の支えだったはずの立花や恭子との距離も、次第に離れていく一方。身を寄せた町工場も、労働環境は劣悪。
ストレスとプレッシャーに耐えかね、たけしの精神崩壊は加速し奇行に走るようになる。
そしてついに、たけしは踏み入ってはならない領域に足を踏み入れてしまう…
とても辛い展開ですが、衝撃のラストシーンまで是非とも見てほしいです。
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