作品紹介
作成 | 2009年 |
ジャンル | ミステリー |
監督 | ジョナサン・リーベスマン |
キャスト | ニック・キャノン、ティモシー・ハットン、シェー・ウィガム |
この映画のココがヤバい
人類は、過去より人体実験を繰り返してきました。
近代では、ナチスドイツがユダヤ人に対して行った、アウシュビッツでの人体実験が有名ですね。人は何回まで骨折に耐えられるか、海水を飲み続けることで生存できるのかなど、恐ろしい人体実験が行われていたということです。
現代社会においては、人権保護の観点から、医学の世界では人体実験を行うことはタブーとされています。
今回紹介する映画「実験室kr-13」は、そんな人体実験のタブーに切り込んだ問題作。何も知らずに密室に閉じ込められた4人の被検体、次々と彼らに襲いかかる悲劇、そして衝撃のラスト。とても見ごたえのある映画です。
しかもこの映画、ツタヤなどには置いておらず、なかなか手に入らないんですよねー。(今回、やっとの思いで入手できました)
では、内容にいってみましょう。
以下、ネタバレの内容が含まれますので、まだ映画をご覧になっていない方は注意してください。
ストーリー
採用試験を受けに来た女エミリー
舞台は、アメリカの某所にある実験施設。ここでは、一体何の研究がされているのかは全くわかりません。
表情学が専門の若い女学者エミリーは、この研究施設へ採用試験を受けに来ていました。
エミリーは、モニター室のような部屋に通されます。そこには、大きなマジックミラーが貼られており、ミラーの向こうには、人間が20~30人は入れるかというほどの大きな部屋があります。
そこに、研究所に所属する科学者フィリップが現れ、「採用試験の科目は、これから流すテープの映像を見て所見を述べることだ」と述べます。
ただし、「この実験の目的を知ることは許されない」「テープもこの部屋も存在しない」という事情を汲むことが必須の条件だった。
エミリーは、この条件を飲むことになります。
「フェーズ1」の開始
(以下、テープの映像)
研究所の所員に案内され、女性1人(イザノラ)、男性3人(トニー、クロフォード、ポール)の計4人が部屋の中に通されます。彼らは、「治験のアルバイト募集」のチラシを見て集まったのです。
その中でも、クロフォードという男は、治験のアルバイトを幾度となくこなして来たベテランで、「ここのバイトは金が良さそうだ」などと余裕を見せつけます。
そこに、フィリップが登場し、「拘束時間は8時間。精神の限界を確かめる実験。報酬は250ドル」と、4人に今回の治験の趣旨を説明します。破格の報酬に4人は喜びます。
たいしてキツくもない実験、美味しい報酬、メンバーに安堵の空気が流れたその刹那・・・
フィリップは急に銃を取り出し、女性参加者であるイザノラを撃ち殺してしまうのです。
驚いてその場に伏せる参加者たちを尻目に、フィリップは素早く部屋から退散して鍵を閉め、残った3人の参加者は完全に閉じ込められることになりました。
これはつまり、人体実験の「フェーズ1」が始まったことを意味するのです。
モニター室では、監視カメラや集音マイク等を使って部屋の中を完全に監視しているので、3人は隠れることもできず、どんなコソコソ話をしても聞こえてしまいます。
課題
さすがのクロフォードも、「今まで何回も治験のアルバイトに参加してきたが、人が死んだのは初めてだぜ(そりゃそうだ)」と焦り気味です。
と、ここで「ポー!」という音が鳴り響くとともに1丁の拳銃が部屋の中に投げ込まれます。
ポールは銃を手に取り、クロフォードとトニーに銃口を向けて「お前もあいつらの仲間なのか!」と錯乱気味です(結局、説得されて撃たずじまい)。
ここでまた「ポー!」という音が鳴り響き、音声が流れます。
「質問に答えてください。1~31の中で、アメリカ人が最も多く選ぶ数字はどれか?一番答えが遠い人が死にます。回答を拒否した場合全員が代償を払うことになります」
不審に思い始めるエミリー
(以下、モニター室)
ここまでの映像を見て、エミリーは不審に思います。ここでやっている実験は、明らかに異常だ。
しかしフィリップは、「大丈夫、”9.11”以降、大目に見られるようになった。」
”9.11”といえば、2001年9月11日に起きた、アメリカ同時多発テロが発生した日。
人体実験とテロ事件、一体何が関係しているのか?
壁のメッセージ
(以下、テープの映像)
意味不明な課題を与えられ、3人はますます混乱します。そこで、ポールが壁に文字らしきものが掘られていることを発見します。
すでに死んでいるイザノラの血を壁に塗ってみると、文字が鮮明に浮かび上がります。よく見てみると、それは「助けて」「タミー 忘れないで」など、既に死んでいった者たちのダイニングメッセージが書き綴られていたのでした。
3人の回答
クロフォードとトニーは、懸命に脱出を試みますが、なかなかうまくいきません。一方ポールは、臆病な性格のためか、壁の隅っこで震えているだけです。ポールが非協力的な態度を取るので、クロフォードとトニーは苛立ちを隠せません。
先ほどの課題の回答に与えられた時間は2時間。そろそろ、何かしらの回答を用意しなければなりません。
クロフォードは、「全員が同じ数字を答えれば、誰も死なないはずだ」提案します。しかしポールは「ルールを守らなきゃダメだ」と、お互いに示し合わせることを一度は拒否。
最終的にポールは説得され、全員が「7」と回答することで折り合いがつくのでした。
いよいよ回答の時です、クロフォードとトニーは予定通り「7」と答えたるのですが、ポールは示し合わせがバレることを恐れ、土壇場で裏切り「17」と答えます。
怒り狂うクロフォードでしたが、ここで部屋の中にガスが流し込まれ、3人は深い眠りについてしまいます。
2人目の犠牲者
(以下、モニター室)
ここでテープの映像は終わります。ここまでのことが起こっても、エミリーは眉一つ動かさずじっと映像を見つめていました。エミリーが、今回の採用試験に抜擢されたのも、この「冷酷さ」が評価されてのことだったのです。
昏睡状態の被験者3人を部屋の中に戻すと、再びフィリップ登場し、急にトニーの頭を銃で撃ち抜くのでした。2人目の犠牲者です。
残された二人
(以下、実験室内)
ようやく目を覚ますクロフォードとポールですが、クロフォードはトニーの死体を発見して愕然します。と同時に、裏切り者のポールに馬乗りになり、ボコボコにするのでした。
ここでクロフォードは、偶然にも「ヒント トップ10圏外」とかかれた奇妙な紙を見つけます。「次の課題に利用できるかも知れない」そう思ったクロフォードは、ヒントの部分だけを破り、ポールに悟られないようそっと自分のポケットに入れます。
ここで2回目の課題が出されます。
「アメリカ人の平均知能指数は、世界で何番目か。」
この問題のヒントを知っているのは、クロフォードだけです。
脱出!
その後クロフォードは、天井の通気口に気がつき脱出を試みます。ポールに協力を求めるのですが、ポールは「俺は奴らに従う」とあくまで非協力的です。
呆れたクロフォードは、一人で通気口に入り込み脱出を試みるのでした。
しかし、すべてを監視している研究所側は、この脱出ももちろん想定済み。職員が通気口内にガスを吹きかけ、クロフォードは再び深い眠りにつくのでした(ポールはスタンガンでやられる)。
エミリーに感情の変化
(以下、モニター室)
ここでエミリーは、余りに残酷な実験を目の当たりにし、「二人を逃がしてあげたい」と思うようになります。しかし、その思惑はフィリップに見透かされ、「失望した」と言われてしまいます。
ここで引き下がれないエミリーは、「この実験は、細胞死の実験だ!だとしたら、もっといい方法がある!」とフィリップに言います。
細胞死とは、不要となった劣等細胞が、全体の利益のため自ら消滅することを言いいます。
つまり、細胞死の習性を利用し、民間人の中から最も優秀な遺伝子を発見する、これがこの実験の目的であるとエミリーは言いたいのです。
エミリーは、土壇場で自分の能力の高さを見せつけ、実験室に残ることを許されたのです。
2回目の回答
(以下、実験室内)
回答期限まで30分と迫ります。
クロフォードは、ポールに「アメリカ人の平均知能指数は5位だ、5と答えろ」といいます。クロフォードは、「トップ10圏外」というヒントを知っているはずです。つまり、ポールに嘘を教えたということになります。
そして、どちらかが生き残ったあと、出口まで逃げ出して外の世界でこの犯罪行為を告発しよう、そう算段するのです。
回答期限まで、刻一刻と迫ってきます。気が弱く、あくまで従順であろうとするポールは、緊張のあまり呼吸が荒くなってきます。
そして回答の瞬間、ポールは突然拳銃を取り出し、「俺には無理だ、君なら・・・」と呟き、銃口を口に加えて自ら命を絶とうとします。
パーン!・・と銃声が鳴り響きます。
なんと、そこで絶命したのは、ポールではなく、クロフォードでした。ポールが引き金を引くより早く職員が実験室内になだれ込み、クロフォードを射殺したのです。
結末
(以下、モニター室)
フィリップは、「実験成功だ」と喜びます。
成功?細胞死の実験であれば、劣っている細胞(つまり、ここの場合ではポール)が自ら命を絶つことで、はじめて成功と言えるのではないか?
フィリップは続けます。「我々は、20人いれば1人は人間兵器になれることを証明した」
ここで、この研究所の本当の目的が明かされます。この研究所は、テロリストの養成施設であり、ここで行われている人体実験は、テロリストとしての素質を見抜くための試験だったのです。
テロリスト、つまり、自爆テロです。自爆テロには、組織のためなら命をも投げ出せるほど従順な人間が必要というわけです。フィリップの”9.11以後、大目に見られるようになった”というセリフは、ここに繋がってきます。
そして、今まで行われていた「フェーズ1」は、従順さを図るためのフェーズだったのです。
そして次は、教化(思想的な影響を与えること)を目的とした「フェーズ2」が始まります。ポールは、新しい部屋へと連れて行かれたところで、この映画は終劇となります。
考察及び感想
密室に閉じ込められ、課題を与えられる。このような構図は、かの有名なミステリーホラー映画「SAW」に似ているように思えます。
実際、SAWが始めて上映されたのは2004年。当時の映画界としては、密室系ミステリーが主流だったんですね。
さらに、2001年にアメリカで発生した同時多発テロに触れている点にも注目です。
2001年9月11日、テロリストによってハイジャックされた民間航空機が、ニューヨークのランドマークともいえるワールドトレードセンタービルに衝突し自爆するという前代未聞の大事件。
2977人が死亡、25000以上が負傷、インフラ被害100億ドル以上という未曽有の被害が発生した。
犯人は、イスラム主義を掲げる過激派テロ組織「アルカイダ」の構成員。アルカイダは、宗教上の理由からかねてよりアメリカ資本主義に恨みを抱いており、反米テロを繰り返してきた。1998年には、ケニアとタンザニアに置かれたアメリカ大使館を爆破するという事件を引き起こしている。
この自爆テロ事件を皮切りに、アメリカ軍がアルカイダの同盟国であるアフガニスタンに侵攻し、「アフガニスタン紛争」が勃発する。
2021年まで19年間続けられたこの紛争は、ベトナム戦争を上回り、アメリカ史上最長の紛争となった。
そして、自爆テロ要員として選ばれたポール。これには、「殉教」という日本人にはなかなか理解しづらい考え方があるんです。
宗教上の信念や道徳を捨てるよりも、神に命を捧げて死を選ぶことが美徳とする考え方。殉教により死亡した者は、直ちに天国に行くことができるとされている。
キリスト教やイスラム教では、「汝、殺すなかれ(自殺しちゃダメよ)」という考え方がある。従ってアルカイダの指導者は、自殺にも等しい自爆テロという行為を容認させるため、「自爆テロは自殺ではなく殉教である」として若者たちを煽動した。
(本音と建前の違いとはいえ、なんだかずるい…)
この後にポールを待つ「フェーズ2」ですが、きっとこの「殉教」という考え方を植え付けられるのでしょうね。
この映画は、こんなデリケートなテーマに触れギリギリを攻めた映画なんです。
余分な設定を省き、人体実験の恐怖を的確に描いた作品です。ストーリーもわかりやすく、ハラハラドキドキさせてくれる良作です。
また最後は、思いもつかないどんでん返しで締めくくられており、ミステリーの映画としては完成度が高いと思います。
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