漫画『俺はまだ本気出していないだけ』(ネタバレ無し)笑いあり涙あり、ハートフルなほのぼのコメディ

漫画

『俺はまだ本気出していないだけ』の作品紹介

 連載 2012年(月間IKKI)
単行本 全5巻(完結)
 ジャンル コメディ
 作者 青野春秋

『俺はまだ本気出していないだけ』は、2012年、月間IKKIにて連載された漫画です。作者である青野春秋さんの代表作で、2013年には映画化されています。

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『俺はまだ本気出していないだけ』のみどころ

題名を見ただけでくすっと笑ってしまいたくなるこの漫画は、ただのギャグマンガなのかと思いきや、人間模様が非常に感動的に描かれているという特徴があります。

御年42歳になる、全くうだつの上がらない我らが主人公シズオ。

 

シズオは、42歳といういい年になりながらも、ハンバーガーショップでアルバイトをしつつ本気で漫画家を目指している。

もちろん、投稿した作品はすべてボツ。デビューのデの字も見えない状態。

奥さんにはとうの昔に愛想を尽かされ、実家で年老いた父の世話になり、高校生になる娘のアルバイト代からお小遣いをもらい、日中はゲームをしながら暮らしている。

口癖は「俺はまだ本気出していないだけ」

はっきり言って、めちゃくちゃ痛いヤツなんです。

 

ところがこのシズオ。悪く言えばただの思い込み野郎なのですが、良く言えば純粋な男。性格だけは、めちゃくちゃいいやつなんです。

「漫画家になる」そんな夢を実現させるために、シズオは七転八倒しながらも我武者羅に自分に向き合っていきます。

そんなひたむきなシズオの行動が、周囲に様々な影響を与えていくのです。

その過程が、まさにハートフル。ギャグを織り込みながらも、心温まるエピソードが描かれていきます。

地味だけど感動する、ていうシーンが数多くあります。

 

例えば、シズオが自転車から転倒して頭を打ち、死にかけるシーン。

この時のシズオの頭には、まるで走馬灯のように思い出がよみがえるわけですが…思い出されるのは娘のことばかり。

娘がまだ自分の足で立てない時、娘を肩車して遊んだ時、七五三の時、ランドセルを背負ったとき、卒業式など…

さりげないシーンなのですが、私は激しく感情を揺さぶられました。

私が死ぬとしたら、間違いなく自分の娘のことを思い出しながら死んでいくでしょうね。

 

他にも、少年時代からの親友宮田との絆の深さを示す中学生時代のエピソード。

宮田を庇うため、無敵のヤンキーに喧嘩を売ったシズオ。当然勝てるわけもなく、宮田と共にボコボコにされます。

その夜宮田は、親の軽トラを無断で運転し、シズオを誘ってドライブに向かいます。

車内で、宮田は将来の夢や悩み事をシズオに打ち明けます。

そして、「大人になっても友達でいてくれるか?」と聞く宮田に、シズオは笑いながら一言

「隣で死んでやるよ」

この言葉はショッキングでしたね。この漫画随一の名言だと思います。

 

あ、感動系エピソードのことばかり取り上げていますけど、ギャグ要素も満載です。

シズオが妄想の中で神様と戦って仲直りするシーンや、「自分が42歳と思っているからダメなんだ」という謎理論で赤ちゃん返りし「俺は赤ちゃん」というタイトルの漫画を持ち込んだシーンなんかは、声を出して笑いました。

 

とにかく、ギャグとほのぼのエピソードのバランスが絶妙ですよね。

第1巻を読んだら最後、結末まで読まないと気がすまなくなる麻薬のような魅力がこの漫画にはあります。

全5巻で完結と、ボリューム的にも読みやすい感じです。

『俺はまだ本気出していないだけ』の登場人物

大黒シズオ

40歳で漫画家を目指す。生活費は、親(72歳)の年金、アルバイト、娘からもらう小遣いで賄っているダメ男中のダメ男。

大黒鈴子

シズオの一人娘。情けない父の姿を目の当たりにしても、いつも静かに笑っている。

気丈そうに見えて、これまでにつらい思いをたくさん経験している。

大黒史郎

シズオの父親。なんとか息子にしっかりしてもらいたいと厳しく当たるが、一向に期待に応えてくれないシズオに憤りを感じている。

ほぼ毎回シズオと衝突する。

宮田修

シズオの少年時代来の親友。脱サラをしてパン屋さんを営んでいる。

離婚した後は、定期的に息子と会うことだけが楽しみ。

市野沢秀一

金髪で目つきが悪く、態度が悪いため、これまでにどんな仕事をしても長続きしなかった。

しかし、勘違いされやすいというだけで、実は生真面目で正義感が強く、心には素晴らしいものを持っている。

宇波綾

編集者に所属し、シズオの担当者。無表情で厳しい言葉をシズオに投げかける鬼。

父は、売れない小説を11年間書き続けた挙句、脳梗塞で死亡。そんな亡き父の姿を、シズオに重ね合わせている。

『俺はまだ本気出していないだけ』ストーリー(細部)

今年40歳になるシズオ。「自分を探すため」という理由で15年間務めた会社を辞めたのはいいが、特に何かをするわけではなく、実家で毎日ゲームに明け暮れていた。

父の史郎はそんなシズオを見て激怒し、「お前はなにがしたいんだ?鈴子ももう高校生だ。もう一度よく考えろ」と問いかける。

そんな問いに対しシズオは、「俺、漫画家になる。俺の生き方見つけちゃったもんねー♪」と答える。

史郎は泣きながら「お前はバカだ。勝手にしろ。」と愛想を尽かす。

 

その後シズオは、「出すもん出さないとアイディアも出ないでしょ♪」と言って、某風俗店を訪れる。すると驚くことに、やってきたホステスは自分の娘鈴子だった。

鈴子は実は、高校卒業後に海外留学することが夢だった。そのためには、どうしても資金が必要だっだ。

「こんな残念な感じになったのはいつからだろう?」シズオは思い悩むうちに、自転車から転倒して頭部を強打。走馬灯のように思い出されるのは、娘鈴子のことばかりだった。

 

その夜、頭に包帯を巻いたまま漫画を描くシズオ。部屋に鈴子がやってくるとシズオは、風俗の仕事を辞めるよう言い伝える。

鈴子は一言「はい」と答える。

 

その後、シズオの書いた漫画「走馬灯」が、努力賞として雑誌に掲載される。

今後の展開

シズオはその後も、漫画を書き続けます。父親からは怒られ、周囲からはバカにされ続け、何度も諦めかけるのですが、編集者への持ち込みを辞めません。

しかし、持ち込むたびにボツ、ボツ、ボツ。失敗の連続です。

 

ところが、シズオがいつものように漫画を持ち込んだある日、担当の村上から「面白かったですよ」と一言が…

シズオの漫画家への挑戦は、転機を迎えることとなります。

 

涙あり、笑いありの隠れた名作「俺は本気出していないだけ」。

是非とも一読ください。

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