『火の鳥 鳳凰編』の作品紹介
連載 | 1969年(漫画雑誌「COM」) |
単行本 | 全16巻(完結)中5~6巻 |
ジャンル | 人間ドラマ |
作者 | 手塚治虫 |
『火の鳥 鳳凰編』は、1969年、漫画雑誌「COM」にて連載された短編漫画です。作者は、日本でもっとも有名な漫画家の手塚治虫さん。
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『火の鳥 鳳凰編』のみどころ
数ある火の鳥シリーズの中でも最高傑作は何か?
どれもこれも甲乙つけがたいですが、私は今回紹介するこの『鳳凰編』を最高傑作にあげたいと思います。
え?望郷編?そんな話、火の鳥シリーズにありましたっけ…?笑
とにかく、ストーリーが最高。「人は何のために生きるのか?なぜ人は死ぬのか?人は死んだら何処へ行くのか?」という人生における究極の問いについて、この漫画は一つのヒントを与えてくれます。
漫画というよりは、もはや哲学書に近いのかもしれません。
火の鳥シリーズの中でも最も”らしさ”が発揮されているのは、この『鳳凰編』だと思います。
時代背景は奈良時代。
二大主人公のうちの一人・我王は、平気で人を殺すロクデナシ。金が欲しい、気に食わない、そんな理由で、これまでに何十人も人を殺してきました。
しかし、そんな殺人鬼我王は、たった一度だけ命を救ったことがあります。それも、人間ではなくテントウムシの命を。
この辺の設定は、『蜘蛛の糸』に登場する犍陀多に似ていますね。
芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』に登場する人物。
大悪党である犍陀多が生前に唯一行った善行が、蜘蛛を踏み殺さずに助けたこと。
この善行を評価した仏は、地獄で苦しむ犍陀多の頭上に向けて救出用の糸(蜘蛛の糸)を垂らすが、犍陀多が糸を独り占めしようとした瞬間に糸は切れてしまうというのが話の顛末。
なぜ人間は平気で殺すのにテントウムシの命は助けたのか?人間とテントウムシの命に違いは有るのか?
我王は後に、この自分の行いについて思い悩むことになります。
この辺は、仏教でいうところの「輪廻転生」という考え方に基づいています。
車輪が回るように、生き物も死んでは生まれ変わりをずっと繰り返しているという仏教の考え方。
死んだ後に何に生まれ変われるのかは、生前の悪行が関係しており、それを「因果応報」という。
死後は、
地獄界(一番辛い世界)
飢餓界(地獄よりはマシだけど常に腹が減ってる状態)
畜生界(動物になる)
修羅界(絶えず争う世界)
人間界(人間になれる)
天上界(一番楽しい世界)
のいずれかに行くと言われている(これを「六道」という)。
そしてこの漫画の見事なところは、二人の主人公の運命が絶妙に交錯するところです。
一人目の主人公・茜丸は、完全なる聖属性。仏像を彫ることに生涯をかける努力家。腕を斬られて動かなくなっても、そのハンディキャップを跳ねのける程の情熱を持ち合わせています。
二人目の主人公・我王は、完全なる闇属性。人殺し、レ〇プ、強盗など、悪の限りを尽くします。しかし、”ある出来事”をきっかけに悪行をぱったり止めることになります。
対照的なこの二人ですが、ストーリーが進むにつれて思想や行動が徐々に変化していくのです。
その辺の描写が実に上手なんですよね。まさに天才。
そしてなんといっても、我王と早魚の別れのは火の鳥シリーズの中でも屈指の名シーンと言えるでしょう。
このシーンでは、多くの人が色んな意味でショックを受けるに違いありません。
騙されたと思って、このシーンだけでも見て欲しいです。割と前半にこのシーンは訪れるので、目には留まりやすいと思います。
ちなみにこの「鳳凰編」は、なんと1987年にファミコンでゲーム化されています。
しかも、我王が工具を投げつけて敵を倒すというコンセプト不明のアクションゲーム。
『火の鳥』という版権をアクションゲームにしようとした、開発者のセンスよ…
『火の鳥 鳳凰編』の登場人物
大和の茜丸
二大主人公のうちの一人。彫刻師。
彫り物にかける情熱は相当なもので、技術も超一流。茜丸の掘った像は「生きているようだ」と形容される。
彫刻師としての腕が認められ、朝廷のお抱えとなり出世街道を歩んでいくのだが、次第に彫刻師としての情熱が失われていってしまう。
我王
二大主人公の一人。生後初日、いきなり親父と共に崖から落下して大怪我を負い、その影響で片目と片手を失う(これは完全に親父が悪い)。
少年時代より周囲から軽蔑の眼で見られ続けてきたせいか性格はねじ曲がり、殺人、強盗、レ〇プなど悪の限りを尽くす大悪党になる。
妻の速魚に「今日は〇人殺した」と伝えて、困る顔を見るのが一番の楽しみという悪趣味の持ち主。
郎弁との出会いが、我王のその後の人生を大きく変えることになる。
速魚
自称茜丸の妹。「なぜ茜丸の腕を斬りつけたか」を我王に問いかけるが、そのままレ〇プされてしまい、無理やり我王と夫婦関係を結ばされる。
正体不明の不思議な女性だが、なんだかんだ言って我王のことを慕っているらしい。
郎弁
大内裏に勤める僧。官職は、僧正。
乱暴者の我王を手懐ける程の人徳を持つ。
我王のことを買っている。
ブチ
平気でうそをつき、どんな男とも肉体関係を持ちたがる尻軽女。
茜丸の誠実さに惚れる。
『火の鳥 鳳凰編』のストーリー(細部)
産まれた時の事故で片目片手を無くすなど、我王はこれまでに不遇の人生を歩んできた。
我王は、ちょっとしたトラブルが元で友人とその一家を殺してしまい、村を追われることになる。
逃亡中、我王は一匹のテントウムシの命を助ける。何気ないこの行動が、やがて我王の人生を大きく変えることになる。
その後我王は、旅の途中で暖をとる茜丸に出会う。我王は、茜丸をナイフで脅して着ぐるみを剥ぐと、「まともな日本の腕を自慢されると我慢ならない」という理由で茜丸の右腕を斬りつける。
(…いやいや、おまえが「脱げ」言ったやん!!(=゚ω゚)ズビシッ)
後を追ってきた自称茜丸の妹・速魚をレ〇プすると、無理やり夫婦関係を結ばせる。
まさに、やりたい放題暴れたい放題の我王。
一方、利き腕を斬られ彫刻師としての活動が絶望的になりショックを受ける茜丸。
しかし、水のしたたりを利用し数年かけて一体の像を掘る寺の住職に感銘を受け、彫刻師として復活しようと必死の努力を続ける。
その頃、盗賊として悪事の限りを尽くしていた我王は、鼻が巨大化し激痛が走るという原因不明の病気に侵される。早魚特製の薬を付けているのだが、状態はなかなか良くならない。
ある日、盗賊仲間が我王にこう耳打ちをする。
「この薬は毒だ。早魚という女は、介抱するフリをして親方を殺そうとしている。」
この言葉を信じた我王は激怒。早魚に向けて剣を振り下ろす。
瀕死の重傷を負い己の死を悟った早魚は、我王に今まで隠していた”あること”を告白する…
今後の展開
早魚の告白がめちゃめちゃ衝撃的で、我王も相当なショックを受けるんですよね。
このことがきっかけで、我王は「命とは何なのか?」というこの真理に触れたのです。
心の中で善と悪が戦い激しく葛藤する我王。そんな我王を優しくも厳しい目で見守る郎弁僧正。
一方、橘諸兄から「3年以内に鳳凰を掘れ。掘れなかったら死刑」という無理難題を押し付けられ、火の鳥を探しに日本中を旅することになった茜丸。奇妙なパートナー、ブチ。
漫画という枠を超えた壮大なスケールを誇るこの『火の鳥 鳳凰編』。
「他のは読まなくていいので、この話は読んで欲しい!」
一人の火の鳥ファンとしては、このように思います。
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