『二百三高地』の作品紹介
製作 | 1980年 |
ジャンル | 戦争 |
監督 | 舛田利雄 |
キャスト | 仲代達矢、あおい輝彦、森繁久彌、夏目雅子、丹波哲郎 |
『二百三高地』は、1980年、舛田利雄監督によって作製された映画です。
映画の紹介、その前に…
さて、いつもであればここで映画のみどころを紹介するところですが、その前に、まずは予備知識として知ってもらいたいことがありますので、そちらから先に説明します。
『二百三高地』は、日露戦争(1904~1905年)をテーマにした映画です。
日露戦争において最も苛烈な戦闘だったのが、旅順攻略戦。そしてこの二百三高地こそ、旅順攻略戦における勝負の決め手となった重要拠点なのです。
なんの予備知識もなくこの映画を見てしまうと、「あー、戦争って悲惨だな」「やっぱ戦争ってやっちゃいけないよね」くらいの浅い感想だけで終わってしまう可能性があります。
ということで、ちょっとだけお付き合いをください。
日露戦争とは?
まず、日露戦争とはどのような戦争だったのか?一言で言い表すと、ロシアや欧米列強のアジア侵略に対する日本の防衛戦争です。
当時、ヨーロッパの国々は片っ端からアジア諸国を植民地にしていました。対する日本は、富国強兵により国の防衛力を高めて、ヨーロッパ諸国の侵攻から必死に国を守ってきました。
当時世界最強と言われたロシア帝国も、アジア侵略を目論んでいた国の一つ。ロシアは、日本の侵略を虎視眈々と狙っていたのです。
では、ロシアが日本に攻めてくるとしたらどこから攻めてくるのか?
それは、世界地図を見れば一目瞭然。朝鮮半島です。朝鮮半島からは、日本は目と鼻の先。
なので日本は、なんとしても朝鮮半島をロシアに占領されることだけは避けたかったのです。
日本は、日清戦争に勝利して朝鮮半島にある遼東半島の租借権を得ます。遼東半島には、旅順という大きな軍港があり、この軍港を使用することで速やかに朝鮮半島へ派兵が可能となります。
ところが、ロシア・ドイツ・フランスの三か国が突然「おい日本、遼東半島を中国へ返してやれよ。調子乗んな!」と言ってきたわけです(これが三国干渉)。当時の日本では、到底この三か国に太刀打ちできず。
多くの血を流してやっと獲得した遼東半島租借権を、断腸の思いで中国に返還します。この時の悔しさを忘れないようにと、「臥薪嘗胆」という言葉はこの時に生まれたそうです。
(ま、ロシアは「中国に返せ」とか言ってますけど、結局旅順はロシアが勝手に使うことになるんですけどね…)
ロシアは海が凍ってしまうため、凍らない港”不凍港”を大変重宝していました。不凍港である旅順港がある遼東半島を、ロシアとしてはどうしても日本に渡したくなかったのでしょう。
そして時は流れ、ついに日露の直接対決の日がやってきました。日本は、なんとして朝鮮半島からロシア軍を追い出したい。そうしなければ、近いうちにロシアは必ず日本を侵略するに違いないからです。
日露の戦力差は10倍
当時の日露両国の戦力比を、簡単に表にしてみました(ウィキペディア参照)。
日本 | ロシア | |
国家歳入 | 約2億円 | 約20億円 |
歩兵 | 約13万人 | 約66万人 |
騎兵 | 約1万人 | 約13万人 |
砲撃支援部隊 | 約1万5千人 | 約16万人 |
工兵など | 約1万5千人 | 約4万5千人 |
ざっと見比べて、戦力差10倍というところでしょうか?
サッカーで例えるならば、FIFAランキング147位のボツワナ代表が、ブラジル代表と戦って勝とうとするようなもの。
普通に考えれば、絶望的な戦争です。
しかし、幸運にも当時ロシア軍の主力はモスクワを始めとするヨーロッパ周辺にありました。世界最強と謳われたバルチック艦隊も、地中海にあるフィンランド港に停泊していたのです。
うかうかしていると、ロシア軍の主力が朝鮮半島に到着してしまう。
もともと国力も段違いなため、長期戦になればなるほど日本は不利になるという状況。
日本からすれば、短期決戦で序盤を勝ちまくり、体力が無くなる前に有利な条件で講和に持ち込む、というのが唯一残された勝利の道だったのです。
二百三高地
では、そんな日露戦争において、二百三高地の戦いはどのような意味を持っていたのか?
この二百三高地を巡る戦いは、旅順攻略戦のにおける勝利の決め手となった戦いなのです。
旅順港に停泊するロシア艦隊をなんとか叩きたい日本軍。しかし、ロシア側は港から全く出てこようとしないため、海戦では無理。
残された手段は、旅順の周辺にある山に大砲を設置し、そこから艦隊を狙い撃ちにするという戦法のみ。
そこで白羽の矢が立ったのが、二百三高地でした。
この高地からは、旅順港を広く見渡すことが出来ました。ここに観測兵を配置すれば、後方から砲撃によりロシア艦隊を狙い撃ちに出来たのです。
事実、二百三高地の占領に成功した日本軍は、その後は難攻不落だった旅順要塞を攻略。
さらに、ロシア国内で”ロシア革命”が起こり戦争どころじゃなくなるという幸運もあり、日本は日露戦争に勝利することができたのです。
ところが、この二百三高地を占領するまでの過程がまさに地獄。まるで悪夢のような戦闘が毎日のように繰り広げられ、何万人という日本人が血を流しているのです。
なぜこんなにも被害が大きかったのか?
そもそも、日露戦争(陸戦)ではなぜこんなにも被害が大きかったのか?
いろいろと原因はあると思われますが、一番大きな理由として、当時世界最強と言われていたロシア海軍バルチック艦隊の存在があります。
海戦前から、ロシアバルチック艦隊が日本海に向けて動く、という情報があったようです。
海軍からすれば、バルチック艦隊が日本近海に来てしまう前に、何としても旅順にあるロシア艦隊を叩いてしまいたい。
ということで、乃木希典は大急ぎで旅順を攻略しなければならず、塹壕を掘り進めての正攻法は取らずに機関銃の銃口に強引に突っ込んでいくという危険な戦術をとらざるを得なかったようです。
ちなみに大東亜戦争では、日露戦争を遥かにしのぐ約230万人もの軍人が戦死しています。ちょっと常軌を逸してますよね。
『二百三高地』のみどころ
この地獄の戦闘の過程を描いたのが、今回紹介する『二百三高地』。
みどころはなんといっても、超豪華な監督・スタッフ陣を揃え、大勢のエキストラを惜しみなく使用するなど製作にあたっての気合の入れっぷりです。
まず、監督の舛田利雄さん。舛田さんは、『大日本帝国』『日本海大海戦 海ゆかば』『零戦燃ゆ』などの代表作を持ち、戦争映画を作らせたら右に出るものはいない名監督として知られています。
そして役者陣。乃木希典を演じる仲代達矢さん、児玉源太郎を演じる丹波哲郎の他にも、三船敏郎さん、あおい輝彦さん、森繁久彌さん、夏目雅子さん、松尾嘉代さんなどなど、当時を代表する役者さんが勢ぞろい。
さらに、総額約15億円もの製作費。当時、映画一本作るのに3億円と言われていた時代なので、その5倍もの予算をこの映画に惜しみなくつぎ込んでいます。
この映画の本気度がわかりますね。
そして、戦争映画と言えばやはり、迫力ある戦闘シーンが売りと言えるでしょう。その点も、この映画は◎
多額の予算を突っ込んでいるだけあって、エキストラも相当の数に。突撃のシーンなどはかなりの迫力があります。
この当時に作られた映画でここまで戦闘に臨場感を持たせているのは、この映画以外に無いでしょう。
旅順攻略戦では、第三軍は合計3回の総攻撃を行っています。その内、一番被害の大きかったのが第一次総攻撃。
史実では、第三軍は参加した兵員76835名のうち、戦死が3972名、負傷が10765名という大損害を被っています。そのくせ、戦果はほとんどないというアチャー(/ω\)な攻撃です。
映画でも、この壮絶すぎる戦闘を忠実に再現。ロシア軍の機関銃によって虐殺される日本軍兵士のシーンが、これでもかといわんばかりに流れます。
かなり容赦なく日本兵が殺されていくので、演技と分かっていて、もなんともいたたまれない気分になっていきます。それくらい臨場感がすごいんです。
上映時間は3時間超えという気合のボリューム。ちょっと長いですが、日本人としては是非とも最後まで見て欲しいです。
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ストーリー(細部)
時は1904年。
この頃の日本は、ロシアとの対立が深まりまさに一触即発の状況にあった。
今の日本を守るには、軍事力世界一のロシアと戦争をするしかない。時の内閣総理大臣・伊藤博文をはじめとする政府関係者はそう決断した。
そうして、日本陸軍では朝鮮半島においてロシア軍と最前線で戦う舞台として第三軍が結成され、最高司令官に乃木希典大将が選ばれた。
乃木希典は、直ちに第三軍総司令部を朝鮮半島への移転を命じ、対ロシア戦に向けて本格的な準備を整えることとした。
時を同じくして、小学校の教師を務める小賀武志は、反戦運動に勤しむ松尾佐知と出会う。
同じ考えを持つ小賀と佐知の仲は、急激に深まっていった。
ここで、小賀の基に召集令状が届く。
トルストイを愛読しロシアの国と人を愛する小賀は、複雑な気持ちを持ちながらも戦場へと赴く。
以後の展開
ロシア軍との戦闘は、苛烈を極めることとなります。
命令ひとつで何千人もの兵隊が死んでいく。乃木希典は、罪悪感に苛まれながらも司令官としての使命を全うしようとします。
一方、激しい戦闘の毎日を過ごす小賀。ロシア軍の抵抗は強力で、一人また一人と仲間が死んでいきます。
絶望的な戦闘を続ける日本軍は、如何にして勝機を見出していったのか?
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