漫画『火の鳥 乱世編』(ネタバレ無し)源義経と武蔵坊弁慶の、史実とは一味違うパラレルストーリー

漫画

『火の鳥 ヤマト編』の作品紹介

 連載 1969年(漫画雑誌「COM」)
単行本 全16巻(完結)中11~12巻
 ジャンル 人間ドラマ
 作者 手塚治虫

『火の鳥 乱世編』は、1969年、漫画雑誌「COM」にて連載された短編漫画です。作者は、日本でもっとも有名な漫画家の手塚治虫さん。

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『火の鳥 乱世編』のみどころ

『火の鳥 乱世編』のみどころは、時代劇映画さながらの戦シーンの多さでしょう(特に下巻)。

時代背景は、12世紀の日本。源氏と平氏が、日本の覇権を巡って戦いを繰り広げていた時代であり、多くの武士たちが命を散らしていった時代でもあります。

大東亜戦争や戦国時代をテーマに取り入れた映画・漫画はたくさんありますが、源平合戦をテーマにするなんてこれまた渋い!

特に、下巻中盤で出てくる壇ノ浦の戦い。

日本の歴史を動かすきっかけとなった、かなり重要な戦であるにもかかわらず、この戦闘を題材とした映画・漫画はあまり多くありません。

「壇ノ浦の戦い」とは?

1185年、壇ノ浦(関門海峡付近)において繰り広げられた、平氏の存亡をかけた戦闘。源氏と平氏両軍合わせて1000艘以上の船が入り乱れる、当時としては最大規模の海戦。

源氏の総大将は、稀代の戦略家・源義経。平氏の総大将は、平清盛の四男・知盛。

開戦当初は、潮の流れを味方につけた平氏が優勢。しかし、不利を悟った義経が漕ぎ手を狙い撃ちするよう射手に命令。平氏側は、漕ぎ手を次々と射殺されて行動不能に陥る。

これにより形勢は逆転。覚悟を決めた平氏の武将たちは、次々と入水自決。平氏随一の猛将として知られる平教経は、義経を道連れにしようとあがくものの、”八双飛び”により義経に逃げられ、失意のうちに戦死。

この戦いが決め手となり、平氏は滅亡した。

この時、二位尼としてしられる平時子は、当時8歳の安徳天皇を抱きかかえて共に入水自殺。

安徳天皇に「どこに連れて行くの?」と聞かれ、平時子は涙をこらえながら「弥陀の浄土へ参りましょう。波の下にも都がございます。」と答えたエピソードはあまりにも有名。

これにより安徳天皇は、戦争で命を落とした唯一の天皇となった。

 

そしてこの漫画は、戦争を批判する立場をとっています。

この漫画は戦闘シーンが数多く描かれていますが、それらはすべて武士たちの権力争いによるもの。

武士は武士だけで戦っていればそれでいいのですが、民間人たちが犠牲になってしまうところが悲しい部分ですね。

そして、戦いに勝ちせっかく栄華を極めても、いつかは必ず衰退し死んでいく。平家物語の歌いだしには「沙羅双樹の花の色 盛者必衰の断りをあらわす」とありますが、平清盛も、源義経も、木曽義仲も、盛者必衰の運命をたどっています。史実でも、この漫画でも。

まさに、諸行無常って感じですね。

この漫画は、戦争という行為の愚かさと空しさを読者に訴えているのです。

 

加えて、この漫画の大きな魅力は”考え抜かれた複雑な人間模様”です。

この漫画の主人公は、弁太と牛若。この二人は後に、「武蔵坊弁慶」「源義経」とそれぞれ名乗ります。

そう、弁慶と義経といったら、”五条の大橋”の出来事をきっかけに固い絆で結ばれた仲。

史実では、弁慶は義経の中心として仕え、最期は義経を守るために矢を受けて立ちながら戦死したといわれています。

ところがところが、この漫画は少し違います。

弁慶は、戦に明け暮れる義経に大切な人間を何人も殺されて、徐々に恨みを抱くようになります。

そしてついに、あの温厚な弁慶の怒りが爆発するのですが…

 

ここから先は重要なネタバレになるので止めておきましょう(笑)

とりあえず、史実とは違う形で人間関係が構築されていきますのでお楽しみに。

『火の鳥 乱世編』の登場人物

弁太(武蔵坊弁慶)

本作の主人公。先祖代々飯森山に住みつく木こり。

性格は優しく争いを好まない。かなりの怪力で、巨大な丸太を振り回しての攻撃を得意とする。

雑兵が束になってかかっても、一網打尽にしてしまう。

武士に両親を殺されて以来、武士に対して強い嫌悪感を抱くようになる。

牛若(源義経)

本作の主人公。何よりも平氏が嫌い。

少年時代は、弁太とは同志としてかたい絆で結ばれ、苦楽を共にした。

平氏討伐のため戦場に立つようになってからは、人が変わったかのように戦に没頭するようになる。

おぶう(吹子)

弁太のいいなずけ。幼い頃から、弁太とは両思いだった。

しかし、武士に親を殺された挙句連れ去られ、無理やり平清盛の側室にさせられる。

最初は嫌々やっていたが、徐々に平清盛に情を寄せるようになり、平家の女になっていく。

ヒノエ

村娘。

気があるように見せて男性に近づき、油断した隙に金目のものを盗んで逃げてしまうという札付きの悪。

弁太と出会ってからは、弁太の純朴で優しい性格に惚れていく。

平清盛

この物語のキーマン。

幼い頃、父親が貴族にバカにされて悔し泣きする姿を見て、「連中を見返すくらいに出世してやる」と思うようになる。

その後、懸命に戦場を駆け抜けて敵を撃滅し、一時代を築くまでに平家を栄えさせた。

自分の死後、平家が滅びるのではないかと心配し、永遠に生きるために火の鳥の血を欲するようになる。

『火の鳥 乱世編』のストーリー(細部)

時は1172年。飯森山には、先祖代々木こりを営む弁太が住んでいた

弁太には、おぶうといういいなずけがいた。弁太とおぶうは相思相愛の中で、いつかは結婚して一緒に暮らすのだと信じていた。

ところが、弁太が偶然都で拾った櫛がきっかけとなり、弁太とおぶうの家は武士に襲われてしまう。そして、両親は殺されたうえに、おぶうは連れ去られ行方不明となる。

 

それ以来弁太は、おぶうの行先を突き止めるべく、夜の五条橋の上で武士を待ち構え、通りかかった武士に「おぶうはどこだ?」と尋ねるようになった。そして、居場所を教えない・知らない者は、容赦なく川に投げ捨てた。

京の都では、このことが噂となり、弁太と遭遇すると刀を捨てて逃げ出す者が続出した。

そんな中、弁太は乞食の少年たちから「神様」と呼ばれている不思議な老人と出会う。そして、その老人が面倒を見る少年の一人に。牛若がいた。

弁太と牛若は、この時、打倒平氏を合言葉に固く手を握り合った。

そして二人は、無理やり側室にされているおぶうを救い出すために、清盛の屋敷へと忍び込む。

以後の展開

前半は、弁太と牛若の仲の良さがなんとも微笑ましく思える展開が続きます。

弁太はおぶうを思い、おぶうは弁太を思う。純愛のストーリーです。

ところが、物語の雰囲気が変わるのは下巻から。殺伐とした感じに変わっていきます。

戦に明け暮れる義経、行きたくない戦争に無理やり連れ回される弁太。

そしてついに、二人の不仲を決定的にさせる出来事が起きてしまいます。

 

話としては上巻下巻の2冊ですが、この2冊は何気に分厚くできていて、普通の単行本4冊分くらいのボリュームは有ります。読み応え十分です。

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